大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成11年(う)550号 判決

被告人 Y(昭和25年○月○日生)

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中100日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人D作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

事実誤認の控訴趣意について

論旨は、原判示売春に係るクラブを経営し、売春契約をしたのは、被告人ではなく、通称「マスター」という人物である上、原判示児童が売春組織を通じず個人的に売春した疑いもあるから、被告人は、本件児童に売春をさせる契約をしたことも売春させたこともないのに、原判決が、被告人につき原判示売春をさせる契約及び児童に淫行をさせる行為の事実を認定したのは判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。

しかしながら、原判決が挙示する証拠を総合すれば、原判示売春をさせる契約及び児童に淫行をさせる行為の事実は優に認められ、原判決が「被告人及び弁護人の主張に対する判断」の項で説示するところは、当裁判所も概ね正当として是認することができる。

関係証拠によれば、被告人は、所携のショルダーバッグや衣服の胸ポケット内に売春クラブに係る携帯電話機数台を所持していたほか、賃借マンション2部屋及び使用車両3台の中に大量の売春クラブに係る客寄せ宣伝ビラ等を所持していた上、右宣伝ビラに記載された連絡先の電話番号と前記携帯電話機の電話番号との間に一致するものがあること、被告人の手帳には、「エーコ」の横に本件児童A子の携帯電話の番号と実家の電話番号の記載があり、被告人が同児の連絡先を手帳にメモしていたことなど被告人の本件売春クラブの経営及び被告人と本件児童との関係を裏付ける事実が認められる。右認定事実に加え、本件児童A子の供述のほか、被告人と同棲し本件売春クラブの手伝い等をしていたB子の供述及び本件児童の遊客Cの供述を総合すると、被告人が本件売春クラブを経営し、本件児童A子との間で売春契約をした上、同児をして遊客Cを相手に売春させたことは明らかである。これと反する被告人の弁解は、不自然不合理で、前記客観的な状況証拠に照らし、到底信用できない。

所論は、本件児童の売春行為について、本件売春クラブと離れて独立別個になされた疑いがあると主張する。しかし、本件児童A子は、当時、テレホンクラブを通じて売春行為をしたり、覚せい剤関係者の男性と交際していたとはいえ、関係証拠特にCの供述によれば、Cは、「□□」と記載された本件売春クラブの客寄せ宣伝ビラに記載された、前記被告人の所持に係る「□□」の貼り紙がある携帯電話機の電話番号に連絡した後、本件児童A子がCの宿泊するホテルに来て売春行為をしたこと、料金のほか、A子が入室と終了に際して電話連絡するなど本件売春クラブとシステムや方法が同一であったことが認められ、本件児童A子が供述するように、同児が被告人の指示により本件売春クラブを通じ、Cを相手に売春したことは明らかであって、所論は理由がない。

その他、所論にかんがみ、記録を精査し、当審における事実取調べの結果を併せ検討しても、原判決に所論の事実誤認はない。論旨は理由がない。

量刑不当の控訴趣意について

論旨は、原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討すると、被告人の情状は、原判決が「情状」の項で具体的かつ正当に説示するとおりである。とりわけ、被告人は、売春防止法違反の罪により三度懲役刑に処せられたほか、原判示累犯前科となる児童福祉法違反の罪で懲役刑に処せられた身でありながら、原判示累犯前科の雇用保険法違反の罪により平成9年8月に最終刑執行後間もなく売春クラブの経営を再開し、本件犯行に及んだものであって、その動機、経緯に酌むべき事情はなく、家出中の中学生の少女を誘って売春契約をした上、自宅に寝泊まりさせるなど犯情は芳しくなく、不自然不合理な弁解に終始して反省するところがないこと等を併せ考えるとき、被告人のこの種事犯に対する常習性と規範意識の欠如は顕著であって、その刑責は軽視することはできない。

したがって、本件児童にも家出中の行動等に問題があったこと、本件売春防止法違反の罪の関連事件等が管轄を異にするため本件と併合審理されてないこと、被告人がすでに相当長期間勾留されていること等所論指摘の被告人のために酌むべき諸事情を十分に斟酌しても、被告人を懲役1年8月に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

なお原判示被告人の所為につき、売春をさせる契約と児童に淫行をさせる行為との間には手段結果の関係があるので、牽連犯として刑法54条1項後段、10条により一罪として重い児童福祉法違反の罪の刑で処断すべきと解されるところ、原判決が、観念的競合の場合に当たるとして刑法54条1項前段、10条により一罪として重い児童福祉法違反の罪の刑で処断したのは法令適用の誤りであるが、右誤りは判決に影響しない。

よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 杉森研二 裁判官 岡田信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例